ロングテールをリアルに実践~九州に“凄い”ホームセンターがあった
小売業の生きる道を探せ――ハンズマン
* 篠原 匡(日経ビジネスオンライン記者)
* ホームセンター
* ハンズマン
* ロングテール
* 死に筋商品
* ハローデイ
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九州一円にホームセンターを展開しているハンズマン(宮崎県都城市、大薗誠司社長)。店舗数は9店舗。売上高207億円、営業利益も1億円あまり(2009年6月期のデータ、2010年6月期第1四半期は出店費用の影響で800万円の営業赤字)。ジャスダック市場に上場しているものの、九州以外の知名度はそれほど高くない。中堅に毛が生えた程度のホームセンターである。
もっとも、その売り場は他を圧倒する迫力だ。テーマパークに迷い込んだような美しい店内、業界他社の数倍に達する圧倒的な商品数、「ロングテール」をリアル店舗で実践しているその戦略――。異色の存在であることは間違いない。これからハンズマンの経営を見ていく。小売業の1つの方向性が明らかになるのではないだろうか。
(日経ビジネス オンライン、篠原匡)
ホームセンター「ハンズマン」。店内にひとたび足を踏み入れれば、その光景に度肝を抜かれることは間違いない。試しに、本部のそばにある吉尾店(宮崎県都城市)を覗いてみよう。
入り口の目の前に広がるガーデニングコーナー。天井高は13メートルと抜群の開放感。天気のいい日は柔らかな陽光が木々や草花を映し出す。メイン通路にはいくつもの街灯、中央の噴水は絶えず水を噴き上げている。商品の苗木の上には色とりどりのパラソル。足元にはレンガを組んだ什器が並んでいた。
ガーデニング売り場。天井が高く開放感は抜群(著者撮影、以下同)
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視線を上に上げれば、イギリスの庭園を撮影した大型パネルが張り巡らされ、「Welcome to Handsman」と書かれた看板が来訪者を迎えてくれる。どこかのテーマパークに迷い込んだのではないか、と錯覚を覚えるほど。視覚に訴えかけるものがほかのホームセンターとはまるで違う。
店に溢れる開放感、驚きを与えるディスプレイ。これは、すべての売り場で共通していた。
スコップやノコギリがのこぎりディスプレイに
ガーデニングコーナーに隣接するDIYコーナーも中央部分はやはり吹き抜け。「Over 180,000」や「DO IT YOURSELF」などと描かれた大きな垂れ幕や看板が天井や壁につり下がっている。屋内だが、そう思わせない奥行きと広がりがある。
ハンズズマン店内。目がくらむほどの迫力だ
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さらに、店内を広角に見れば、あまりの多さに立ちくらみするほど、雑多な商品が整然と並べられている。「青」「黄」「赤」「白」「黒」。棚ごとに並んだビビッドな商品群はそれだけで巨大なアート作品に思えてくるから不思議なものだ。
なにより、衝撃を受けるのは棚を埋めるディスプレイである。スコップやのこぎり、ヘルメット、作業服、じょうろ、ガムテープ、蛇口――など、その棚で売っている商品が壁の高い位置にそのまま貼り付けられていた。視界に飛び込むスコップやのこぎり。その違和感は筆舌に尽くしがたい。
各売り場の上部には商品がそのまま貼りつけてある
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ここは作業着売り場
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度肝を抜かれるのは棚に並べられている商品も同様だ。このホームセンター、とにかく商品の数が多い。例えば、鉄工用電気ドリルのドリルビッド。近隣のホームセンターは0.5ミリ単位で販売しているが、この店では0.1ミリ刻み。しかも、普通は2本単位だが、ハンズマンでは1本ずつバラで販売している。
電力ヒューズも1つの売り。そのアイテム数は300種類を優に超える。コンデンサや抵抗器も360種類。代用がきくすべてのパターンがここで揃う。ネジも約3000種類。「これが置いてあるのはうちくらいじゃないの」。同社の2代目、大薗誠司社長がこう豪語するように、左巻きのネジまで置いてある。
畜産王国、都城の土地柄もあり、牛の鼻輪やほ乳瓶などの畜産用具を数多く扱う一方、近隣の農家のために30種類を超える段ボールを常備している。運動会の綱引き用ロープも含めて300種類を超えるロープを並べる一方、メキシコやイタリア、イギリスなど世界各国から仕入れた園芸鉢も売っている。
トラクターの点火プラグまで常備しているからだろうか。「その部品はハンズマンに行ってください」。自動車部品を買いに来た客にハンズマンを勧める自動車用品店も近隣にはあるほど。「専門店になくてもハンズマンにはある」という商品は数しれない。
電気ドリルビットは0.1ミリ刻み
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ここはスコップ売り場
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手袋は左右ばら売り、驚異の18万5000アイテム
驚愕のアイテムはそれだけではない。作業用手袋。普通は右と左のワンセットだが、このホームセンターでは右と左をバラで売っている。散水用のホースノズルもそう。普通はノズルの完成品が置いてあるが、この店は完成品と同様にバラバラの部品も売っている。
文房具もそう。普通はボールペンやシャープペンシルをそのまま売るが、この店ではボールペンの中身のインクやシャープペンシルの消しゴムを単品で売っている。入浴剤もそう。普通は15包なら15包を一袋で売っているが、この店では袋を破いて1包ずつ売っている。
こうした商品が積もりに積もって、商品点数は現在18万5000アイテムに達した。「業界平均は3万5000アイテムぐらい」という大薗社長の言葉をそのまま受け取れば、実に他店の5~6倍のアイテム数があるということになる。「ないものはない」を看板に掲げるハンズマン。それも伊達ではないだろう。
もっとも、はじめからアイテム数が多かったわけではない。
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旧三和銀行に勤めていた大薗社長が郷里である都城に戻り、ハンズマンに入社したのは13年前のこと。父親が経営していたその当時、アイテム数は3万点余りしかなかった。そのハンズマンが18万5000点までアイテム数が積み上げたのは客の要望に応え続けた結果である。
客からの要望は月に電話帳5冊分
「お客さんが必要としているものを揃える。それがホームセンターの存在意義」。そう大薗社長が語るように、客が望むものは基本的に店に置く。
大量の「要望商品メモ」に埋もれる大薗誠司社長
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例えば、手袋のばら売り。作業によっては手袋の右と左で痛み方が異なる場合がある。そのたびに、両手ワンセットの手袋を買うのはもったいない――。その声を聞いたハンズマンは客の目の前で袋を破いて左手だけを売った。以来、手袋のばら売りが当たり前になった。
散水ノズルパーツのばら売りも同様の理由だ。使ったことのある人ならわかるだろうが、散水ノズルはぶつけたりしてたまに壊れる。そのたびに新品を買うのは無駄。壊れたパーツだけを売ってもらえないだろうか――。そんな客の声を聞いたハンズマンはメーカーと交渉してパーツのばら売りを始めた。
一事が万事、ドリルビッドが0.1ミリ刻みの1本売りになったのも、電力ヒューズが300種類を超えたのも、コンデンサや抵抗器が360種類あるのも、滅多に売れない綱引きロープが常備されているのも、ドアの取っ手ばかりが300種類あるのも、すべて顧客の声に従ったためだ。
散水ノズルのパーツ。かなりの売れ筋
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手袋も左右ばら売り
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「客の声を聞く」というこの姿勢、ハンズマンは徹底している。
その象徴が「要望商品メモ」、「××のような商品はないか」。店舗の従業員は客の問い合わせを受けることが少なくない。その際、実際に問い合わせを受けた商品名、商品名がわからなければ特徴を「要望商品メモ」にまとめ、本部に提出する仕組みになっている。
顧客の要望をより多く吸い上げるため、要望商品メモを出した従業員ほど評価が上がるように人事制度まで変えてしまった。その結果だろう。各店舗から上がる「要望商品メモ」はひと月で電話帳5冊分に達している。よほど特殊なものは注文になるが、5冊の電話帳の7割はとりあえず店に並べる、という。
自社店舗の商材で自宅を建設した社長
大薗社長の自宅の庭。全部ハンズマンの商品で作った
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「客の声で売り場を作る」というハンズマンの哲学。最も実践しているのは大薗社長だろう。都城市のとなり、三股町にある大薗社長の自宅は屋根と外装壁以外は吉尾店にある商品で建てた。
柱や梁は「建材館」で売っている都城産のスギ、玄関の門扉や外壁のコンクリ、居間のランプ、天井のファン、カーテン、庭の木々――。置いていなかった商品は取り寄せて常備在庫に加え、高いと感じたものはメーカーと交渉して売価を下げた。型が変わったり、生産中止になったりしているものはダメだが、その多くはハンズマンに行けば今でも買うことができる。
自宅のコンクリートや門扉も吉尾店で買った
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このように、客の要望に忠実であり続けた結果、アイテム数は毎年1万点ペースで増加。その結果、18万5000アイテムという破格の水準に行き着いた。そして、この強烈なアイテム数が、スコップやのこぎりに象徴される独自のディスプレイや開放感のある店作りを生み落とした。
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ハンズマンの売り場では、棚の上の方に商品をそのまま貼りつけている、ということは既に触れた。作業服売り場には作業着が、じょうろ売り場にはじょうろが、チェーンソー売り場にはチェーンソーが、蛇口売り場には蛇口が、自転車用品売り場には分解した自転車が、本当に貼りつけてある。こうした数々の実物ディスプレイ。アイテム数が多いがゆえに、苦肉の策で生まれたものだ。
ここは蛇口売り場
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草刈機売り場か?
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何に使うのかわからない商品ばかり
「ホームセンターに買い物に来るお客さんの一番の不満は『何がどこにあるのかわからない』ということ。その不満を解消するために、そのコーナーの売れ筋商品をそのまま壁に貼っている」
大薗社長は語るように、目立つところにスコップがあれば、園芸資材や土木工具の売り場と一目でわかる。同様に、カラフルなじょうろがペタペタと貼ってあれば、水まわりの商品が置いてあるとすぐにわかる。ついでに言えば、店舗の天井を高くしているのも実物ディスプレイを見えやすくするため。実物ディスプレイは見た目の面白さだけでなく、消費者の不満解消という狙いがあった。
継ぎ目などに使うシリコーンのシーラント。色が分かるようにチューブから出ている
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さらに、消費者の満足度を高めるために、従業員の教育にも力を入れている。
アイテム数がこれだけあると、「何がどこにあるのかわからない」というだけでなく、「何に使うのかわからない」という商品もこれまた多い。
例えば、ハンズマンではメガネのネジが1つ21円で売っている。この商品など説明を受けない限り、何に使うネジなのか、まったくわからないだろう。それに、メガネのネジとわかったところで、自分のメガネに合うのかどうか、その場では確かめようがない。
裏を返せば、ハンズマンにあるのはきちんと説明しなければ売れない商品ばかりだということ。そのため、毎週1回、従業員を集めて研修会を開く。
ガムテープ。色と太さがひと目で分かる
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シャベルとスコップとロープ
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商品が小さすぎてPOSデータが使えない
300円のハケと4000円のハケで塗ることでその違いを知ると同時に、各メーカーの電動工具を実際に使用し、違いを体にたたき込む。さらには、レンガの敷き方、カンナの使い方、のこぎりの引き方なども使って覚える。
「300円のハケと4000円のハケは使用感が明らかに違う。4000円のハケは毛が抜けることなく何メートルもムラなく塗ることができる。それをしっかり説明すると、お客さんは迷うことなく4000円のハケを手に取る」と大薗社長は語る。
店舗のレイアウトは社長が描く
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この会社では開業準備も重要な実地訓練になっている。
大薗社長によれば、ホームセンターの開業準備には通常2週間ほどかけるという。それに対して、ハンズマンは開業までに2カ月も要する。それは、社長や従業員が手作りで店を作るため。現実に、店のレイアウトは大薗社長自身が設計しているし、什器や看板、ディスプレイなども工具を握って従業員が作る。こうした作業が商品知識を深めるのに一役買っているのは間違いないだろう。
このように、ハンズマンは「説明して売る」という方針を取っているため、店舗の従業員がどうしても多くなる。3500坪の売り場面積を誇る吉尾店で働く従業員は110人。これは、近隣のホームセンターと比べると3倍の人数だ。全社で見ても、粗利に占める人件費の割合は45%を占めている。それでも、「説明しなければ売れない」という商材の特性上、必要不可欠な戦力と大薗社長は考えている。
「効率経営」とは対極のハンズマン
ちなみに、18万5000アイテムの商品管理はPOS(販売時点管理)データではなく、独自の携帯端末を使っている。抵抗器やコンデンサを見ればわかりやすいが、ハンズマンの商品は小さすぎるために、バーコードを貼れないものが多い。そのため、店内在庫の実数を携帯端末に入れ、金額や数量をレジで打ち込むだけにしている。このやり方を15年、続けている。
自慢の独自端末も仕組みはいたって簡単だ。商品ごとに発注をかける「発注点」と「発注量」を決めておき、在庫がその数を下回ったら自動的に発注をかけるというもの。店内在庫の確認は週2回、従業員が持ち場を回って確かめる。「週に2回、棚卸しをしているのと同じこと。商品の場所も覚えるし、汚れや劣化、売れ行きの変化などにも気づく。POSよりも断然、便利ですよ」と大園社長は胸を張る。
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ここまで見てきておよそ想像がついたかもしれないが、ハンズマンの店頭に並ぶ商品の大半がほとんど売れない死に筋商品である。販売数が年ひと桁の商品が占める割合は全商品の60%。しかも、「業界の在庫回転率は年平均6~7回転だが、ハンズマンは年平均4回」(大薗社長)と大きく劣っている。
アイテム数は多い。その大半は年に10個も売れない。それでいて、店舗の人員は多い――。「効率経営」という言葉とは対極の経営スタイルである。もっとも、膨大な死に筋商品と高い人件費がハンズマンの戦略の肝。ホームセンターという小売りの激戦区の中でも競合他社に伍しているのはそのためだ。
什器も従業員の手作り
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過半数を占める「死に筋商品」が集客の呼び水
もう少し詳しく見てみよう。
前述したとおり、ハンズマンはほとんど売れない商品が過半数を占めており、接客のための人員をよその店よりも多く抱えている。その状態で利益を出すためには、売り場の売上高を増やす必要がある。売り場の面積当たりの売上高が増えれば、その分だけ高い経費がカバーできるためだ。
これは、小売りのスタンダードな戦略と言えるだろう。
昨年12月に掲載した北九州のスーパー、ハローデイ。メルヘンチックなディスプレイでテーマパークのような店内を演出している点もハンズマンに似ているが、それ以上に、多様な商品を並べて売り場の魅力を高め、坪当たりの売上高を増やそうとしているところが変わらない。
ベーカリーで冷凍生地を使わないのも、手間のかかる刺身を50種類以上並べるのも、半分にカットしたオレンジが並んでいるのも、店内を数々のディスプレイで彩っているのも、来店客数を増やして坪当たりの売上高を上げるため。経費はかかるが、それを上回る売上高で経費を癒す――という戦略だ。POSデータで売れ筋を見極め、アイテム数を減らして経費を下げるというモデルとは対極と言っていい。
芝刈機まで貼るか普通?
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それでは、面積当たりの売上高を高めるにはどうすればいいのか。その1つの方策は商圏を広げ、リピーターを増やすことである。それでは、リピーターを増やすにはどうすればいいのか。その答えが60%を占める死に筋商品にある。
結論を先に言ってしまえば、大量の死に筋商品を揃えることによって、「あの店に行けばないものはない」というイメージをハンズマンは作り出している。そして、その風評があるがゆえに、ずっと遠くの町からハンズマンに客が訪れ、熱心なリピート客になっていく。
現実に、ハンズマンの商圏は15~20キロメートルとかなり広い。都城市の吉尾店には、サーフボードの補修材を買うために遠く宮崎市から客が来る。1年間に吉尾店のレジを通過する買い物客も150万人と、近隣の競合他社と比べると桁違いに多い。1店あたりの売上高も年27億円と群を抜く。それもこれも、「あの店に行けば何とかなる」という期待感があるからだろう。
顧客アンケートにもそれは現れている。「なぜこの店に来るのか」というアンケートを採った場合、普通は「近い>安い>・・・」、あるいは「安い>近い>・・・」という順番になることが多い。だが、ハンズマンの場合は、「絶対にある>店員が親切>・・・・・・>近い>安い」。品揃えに対する信頼感はほかのホームセンターとはだいぶ異なる。
損して勝ち取れ顧客の信用
そのための苦労も厭わない。客の要望を聞き出し、客の求めるものは店に置く。それが、ハンズマンの特徴という話は既にしたが、時には採算を度外視して商品を集めることもある。
かつて「隣接する三股町のゴミ袋を置いて欲しい」という声が上がったことがあった、だが、三股町のゴミ袋は三股町の小売りしか扱うことができない。それでも、客の期待に応えるために、三股町のスーパーでゴミ袋を購入し、吉尾店に並べた。当然、利益などでない。だが、「ありません」と言った瞬間、「ないものはない」という信用は崩れ去る。ゴミ袋の値段などしれたもの。「損して得取れ」を地でいった。
ホースノズルの数々。様々な蛇口に対応している
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「損して得取れ」のはばら売りでも同じことだ。散水ホースノズルをばら売りしているハンズマン。当然、壊れても部品を買うために、完成品の売り上げは落ちる。事実、ノズルの売り上げは落ちた。ところが、パーツの売り上げが大幅に伸びたため、ホースノズル売り場全体の売り上げは4倍に伸びた。「パーツがほしい」という客の声に愚直に従った結果だ。
これまで「死に筋」「死に筋」と散々に書いてきたが、ハンズマンの「死に筋商品」は「客が求めた商品」ということを忘れてはならないだろう。「メーカーの提案で棚作りをしているのではなく、客が欲しいものを集めた結果として死に筋。アイテム数の多さはリスクではない」。そう語る大薗社長の言葉通り、在庫管理さえ間違えなければ、消費者のニーズに沿った商品である以上、時間がたてばある程度ははけていく。
もう1つ付け加えると、こうした死に筋商品の多くは工務店や中小工場など地場のプロが求めたものだ。実は、ハンズマンの客の半分以上はプロユーザー。売り場には彼らの声が強く反映されている。
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品揃えの際もプロユーザーを集めて話を聞く。例えば、ハケの品揃えを増やす場合、近隣の塗料業者を集めて、「今の品揃えで何が足りないですか」「どんなハケがあればいいですか」「今はいくらのハケを買っていますか」などと意見を聞く。これは生活関連商品でも同じだ。テーブルクロスやトイレマット、鍋などを置く場合も周辺の女性客に聞いて回る。
この姿勢は徹底している。
各店舗では毎朝パンやコーヒーを無料で提供
ハンズマンの開店時間は朝7時から夜10時。これは、現場に向かうプロユーザーを意識しているため。建材館の通路が広いのも資材を運ぶ軽トラックがそのまま入れられるようにという配慮である。ちなみに、ハンズマンの各店舗には毎朝、無料のパンとコーヒーが並ぶ。これも、朝ごはん抜きで現場に向かうプロユーザーのために用意したものだ。商圏が広いのは「プロの店」とプロに認知されていることも大きい。
ここは建材売り場
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ハンズマンがこうしたリピート客に支えられていることは個店の売上高でも垣間見ることができる。一般的に、小売りの店舗は開業後の売上高が最も高い。その後、競合店ができたり、飽きられたりすることで、既存店の売上高は少しずつ下がっていく。
ところが、ハンズマンの場合は年を経るごとに、既存店売上高が増えている。社外秘のデータをチラ見したが、ほとんどの店舗でオープンの翌年以降、売上高が伸びていた。これは、「あそこに行けば何とかなる」という評判が周囲に広がった結果、来店客数が増えたということだろう。
今一度、振り返ってみよう。ハンズマンが「要望商品メモ」を作り、人事制度を変えてまで顧客の声を拾い上げようとするのは「ないものはない」というイメージを作り上げるため。手袋をばら売りし、年に数個しか売れない商品を大量に抱えるのも「あそこに行けば必ず見つかる」と消費者に思わせるためだ。だからこそ、18万5000点までアイテム数を増やしてきた。
その結果、ハンズマンに各店舗には大勢の客が集まり、たくさんの商材を買うようになった。現実に、吉尾店の商圏は約15キロ。年300万人が店に足を運び、150万人がレジを通過している。吉尾店の売上高は年27億円。坪当たりの売上高はほかのホームセンターと比べても格段に高い。
桐すのこサイズ一覧表。全従業員に押入れのサイズを調べさせた
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「ロングテール」のリアル版
「おもちゃ箱をひっくり返したように雑多な商品が並んでいる」と書くと、ドン・キホーテを思い出す人もいるかもしれない。圧倒的なアイテム数やテーマパークのような店内は確かに似ている。だが、ハンズマンの商品はすべてがいつでも棚にある常時在庫だ。
「ないものがない」と言うと、東急ハンズを思い出すかもしれない。丁寧な販売員が常駐し、電動工具や樹脂材料からバラエティグッズまで揃う東急ハンズに、ハンズマンは確かに似ている。名前まで似ている。だが、大都市と都城、都心のビル店舗とロードサイドなどの違いはもちろんあるが、アイテム数が違う。
ドン・キホーテでも東急ハンズでもないハンズマン。その戦略は、大量の死に筋商品で「ないものはない」というイメージを醸成、商圏を広げることで売上高を増やし、高い経費率をカバーする――というものだった。
これは、ロングテールのリアル版と言い換えてもいいだろう。
アマゾンドットコムなどネット企業のビジネスモデルとして一躍有名になった「ロングテール」。在庫の制約が小さいネット店舗はほとんど売れないニッチ商品が大きな収益源になることを表した言葉だ。ほとんど売れない死に筋を呼び水に商圏を広げている、という点ではハンズマンも変わらない。
ただ、ロングテールといったところで、リアル店舗は在庫の制約を強く受ける。その事実はハンズマンでも同様だ。この課題に対処するために、ハンズマンは特殊部隊が存在する。それは改善課。平たく言えば、効率的な陳列方法を研究している人々である。
毎年1万アイテムずつ商品を増やしてきたハンズマン。およそ2年に1回のペースで新店オープンしており、アイテム数の増大は新店の売り場面積を大きくすることで対応してきた。ただ、そうは言っても、売り場面積が無限に広がるわけではない。できるだけ多くの商品を並べるためには、売り場の陳列方法の改善が欠かせない。
そのやり方はなかなかに涙ぐましい。
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商品を引っかけているフックの長さを変えて、商品を重ねて陳列していくのは初歩の初歩。袋詰めにしてフックにぶら下げていたものを引き出し型の陳列に変えることも有効な方法だ。商品を倒したり、横にしたりすることで客から見える面を小さくしていく、というのもよくやる手である。
このような細々とした改善では対応できない大きな売り場変更の場合は、本社の一角にある作業部屋で効率的な陳列方法をシミュレーションし、その上で売り場を改善していく。改善課の従業員は20人。それぞれの店で日々、効率的な陳列に知恵を絞る。
整然とした売り場。分解した自転車がそのまま壁に貼られている
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陳列にかける執念はハンズマンのDNAと言っていいだろう。
同社では陳列の際の色順が決まっている。メイン通路や入り口から順に、「赤」→「黄」→「緑」→「青」→「紫」と、光の波長の長いものから順に並べている。ちなみに、上下で言えば、上の方が「赤」だ。
ルール通りの色に陳列されたカラーコーン
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「赤はパッと目に入るし、大きく見える。赤を最初に置くことで、何がどこにあるのか認知させる」と大薗社長は言う。なるほど、ハンズマンの売り場が幾何学模様のアート作品に見えるのは、一定のルールで色が統一されているからだろう。
もちろん、「陳列方法の改善で強烈なアイテムを収納している」とは言ったものの、すべてを改善で対応しているわけではない。当然、死に筋商品の一部を売り場から外すこともある。10個のアイテムを入れて1つ2つを落とすという感じ」と大薗社長が打ち明けるように、ハンズマンも在庫の制約を受けている。「ないものはない」はある意味、幻想である。
それでも、10に1つの入れ替えをしながら、徐々に商品構成を変えている。かつては家電製品やカーナビのようなものも置いていたが、そういった商品はもうない。そのかわり、「電気工事業者が好むペンチ」のようなマニアックなプロ向け商品が増えた。ほかの店で買える商品はよそに任せ、「暮らしのホームセンター」という部分でよりニッチにシフトしている。正確に言えば、領域限定型のリアルロングテール戦略だろう。
都城市内のハンズマン本社。看板や床などは工作好きの従業員が作った
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「多くの小売りは売り場の人を減らすことで利益を上げようとするけど、それをやれば売上高が減ってしまう。すると、経費率が上がるため、さらなる効率化が必要になる。売り場を効率化し、アイテム数を減らせば、売り場の魅力は失われていく。もう悪循環だよね。僕たちはそうならないように、チェーンストア理論とは逆のことをしている」
ホームセンター業界とそのほかの小売業界を一律に比較することはできないが、大園社長が語るように、効率化を進めたために売り場の魅力が失われている店は少なくない。アイテム数を増やすことで経費率を補うハンズマンは1つの方向性だろう。死に筋だらけの楽しい売り場。多くの示唆に富んでいる。











